浅野弥衛(あさの やえ:1914-1996)の作品をはじめて見たとき、人はどのような印象を受けるでしょうか。白と黒だけの画面、またはごく限られた色の密集、線や点の交差……一見無機的で禁欲的とも取れる作品にはその実、詩情やユーモアが静かに響きあっています。白い画面に走る黒い線や均等に並んでいる直線でさえ、どこかぬくもりを感じられるのはなぜでしょう。
浅野弥衛は初めての発表以来、生涯にわたり抽象的な作品を描き続けました。彼にとって抽象画は戦前、十代の頃に出会ったときから違和感のないものだったといいます。「能、カブキはシュールなものだし、床の間の違いダナのアンバランスだってそうだ。日本に昔からあったんや」――日本人としての感性と生来の資質を育んでくれた三重県鈴鹿で、浅野は人とのかかわりを好みながらも時代に迎合することなく作品を生み出していきました。
豊田市美術館はこの春、所蔵及び寄託の浅野弥衛作品約30点を1室でまとめて展示し、浅野作品の代名詞もいえる「ひっかき」の独自な技法も、実際に画家が使った道具を交えて紹介します。初期から晩年まで画材も作風も様々な作品から、気骨ある画家の姿をぜひ感じ取ってください。