「生態系からみた地球」というテーマに基づき、国内外の高峰や壮大な自然の営みを地球規模で撮り続ける水越武。東京都写真美術館では、このたび世界的に活躍する水越の40年以上に及ぶ作家生活のなかから厳選した代表作品に、近作を加えた200点を展観する「大地への想い水越武写真展」を開催致します。水越武は1938年に愛知県豊橋市に生まれました。幼い頃から山の自然に親しみ、20代の頃、ナチュラリスト・田淵行男の写真集『高山蝶』に感銘を受け、写真の道に進むことを決意。田淵から山に対するひたむきな姿勢や、自然をリアルに直視する洞察力を学びました。そして、1971年に発表した「穂高」のシリーズでは、厳然たる山の神髄を示し、山岳写真界にその名を深く刻むこととなりました。水越の視点は国内外の高峰から自然界の動植物に移り、日本の原生林や世界各地の熱帯雨林、近年では急激な温暖化で後退がすすむ世界各地の氷河など、地球全体をとりまく生態系がテーマとなっています。水越の「自然の多様性こそが、地球を美しく彩り、豊かな表情を与え、美しく調和させる」という言葉は、地球に生きる私たち人類が、地球を常に視野に入れて生きてゆかなくてはならないというメッセージにほかなりません。水越は展覧会の開催にあたりこのようなメッセージを綴っています。「好奇心のおもむくまま、少しでも高く、遠くへとひたすら自分の足で歩き、私は夢や憧れの軌跡となる写真を持ち帰った。 遠くには地平線があり、高くには山があった。どこを歩いていても頭の隅には大地への想いが常にあった。地球はなんと美しく、無限の表情を持ち、多様性に富んだ不思議な生きものを抱え込んでいることか。人間にとって母なる星である地球は、ひとつの生命を持った有機体であるとするジェームス・ラブロックの“ガイア”の考えもある。大気、海洋、大地が息づいて生きているというのだ。人類の明日を脅かす環境問題は、国境を取り払って地球規模で取り組んでいく必要がある。それにはかけがえのない惑星“地球”を視野に入れた自然観を持たなければならない。言い換えれば、いま各自が新しい地球観を持つべき時代がやって来たのではないか、と私は考える」水越の豊饒な写真世界を一望する本展は、地球規模ですすむ自然破壊への警告だけではなく、生命の多様性と美しさを呈する作品として、私たちに深い感動を与えてくれるのではないでし・・・