土門拳は、昭和20年代後半から30年代初めにかけて、数多くのこどもの写真を撮影しました。特に彼を惹きつけたのが、下町である深川・白河町の清洲アパート付近です(東京都江東区)。街のいたるところに、たくさんのこどもがあふれていました。紙芝居、おしくらまんじゅう、三輪車、らくがき、チャンバラごっこ、ビー玉、めんこ、コマ回し…。土門は35mmの小型カメラとキャラメルを手に、彼らの中に溶け込んで、路地で生き生きと遊ぶ子供の姿を活写しました。
写真の中のこどもたちはただ可愛らしい無邪気なこども像ではありません。彼らは確かに日々の生活の中で、泣いたり笑ったり、輝く眼で一生懸命、真剣にたくましく生きています。
土門拳は、昭和52(1977)年にかつて自分が撮った写真を振り返って「子供に視点が向いたのは、やはり子供に引かれたからだと思う。しかし子供の写真でも、今は、かつて撮ったような子供の写真はもう撮れない。天真爛漫な子供、子供らしい子供は、今の小学生の中から見いだそうとしても、もうみつからない。試験、学習塾というような、子供を締め付ける社会の風潮が、子供から子供らしい大半を奪ってしまったのである。」と書いています。すでに今から30年も前に土門が言っていたこの言葉は、さらに深刻に切実に現代社会にも響いてきます。
土門の写真の中のこどもたち。そこにいるのは、もしかしたら昔のあなた自身かもしれません…。
11×14モノクロ 30点