鶴岡政男(1907-1979)は、群馬県高崎市に生まれ、彼の生きた時代や社会と深く関わりながら、つねに人間とは何か問い続けた画家です。戦前から幾度となく画風を変貌させ、個性の強い独自な生き様を示した鶴岡は、自己に忠実に生きた画家でした。そしてその存在は戦後洋画の異才として注目され続けました。
なかでも、敗戦直後の日本人の抑圧された心理状況を表した《重い手》や《夜の群像》、原爆投下をモティーフとした《人間気化》といった作品は、戦後美術を語るうえで欠かせない象徴的な作品として今日高く評価されています。また、フーテンの女王ポコを主人公にしたポコのシリーズでは、街の片隅で生きる名もなき人々に共感を寄せ、《青いカーテン》《視点B》《ゴルフ》などでは、ユーモラスであり、同時にエロティシズムを感じさせもします。その独特な画風の根底には、絶えず人間を見つめ、人間であることから滲み出すおかしみや愚かしさ、ときに不気味ささえ暴いていく鋭い眼と人間への深い共感が溢れています。
鶴岡政男が生まれてから100年、亡くなってから27年がたちました。鶴岡の画業については、亡くなってからこれまでのあいだ、断片的な紹介はあったものの、その全貌を紹介する展覧会が開かれることはありませんでした。
本展は、画家の誕生100年を記念して、代表作の油絵を中心に、パステル画、素描、彫刻を含め150点ほど紹介します(一部展示替えをいたします)。21世紀に入ってますます人間の状況の変化が激しくなっている現在、戦前から戦後にかけて人間と現実の矛盾を止むことなく追及した鶴岡政男の画業を改めて検証したいと思います。