マルク・シャガール(1887-1985)は1922年頃から版画の制作を始め、その後生涯に渡って約2000点にも及ぶ作品を残しています。当初は銅版画を中心に取り組んでいましたが、第二次世界大戦後リトグラフに専念し、鮮やかな色彩の作品を次々と生み出しました。
『ダフニスとクロエ』は最初の依頼から3年後に引き受け、その後構想5年、制作に3年を費やし1961年に刊行されました。牧場を舞台に二人の捨て子が出会い、妖精たちに助けられ、大人の愛を成就するというこの古代ギリシアの小説(ロンゴス作)は、ラヴェルのバレエ組曲や三島由紀夫の『潮騒』に影響を与えたことでも有名です。新妻ヴァヴァとギリシア取材旅行にでかけたシャガールは何度も修正を繰り返し、20色以上も用いて色彩を輝かせることに成功しました。
また、シャガールの版画のなかでは珍しい色彩木版画集『ポエム』は、若い頃から好んで詩作を続けていたシャガールが1909年から1965年までに創作した31編の詩に、24枚の木版画を添えて1968年に刊行された詩画集です。その詩は、愛する人、故郷への想い、自らの画家としての仕事や戦争についてうたったもの、旧約聖書の世界が読み込まれたものなど自らの画家としての仕事や戦争についてうたったもの、旧約聖書の世界が読み込まれたものなど自らの生涯を回顧するかのようです。木版の素材感を巧みに表現に取り入れ、紙や布のコラージュが独特な表情をみせるこの作品は、色彩豊かでありながら、落ち着いた深い味わいを醸し出し、シャガールの瑞々しく尖鋭な完成が表現されています。
本展では、シャガールのカラー・リトグラフ作品の最高傑作として名高い『ダフニスとクロエ』全42点と、シャガールの版画世界がより大きな広がりをみせた『ポエム』より木版画、全24点をご紹介します。