海に囲まれ、豊かな自然に恵まれた風光明媚な房総は、江戸時代より浮世絵の格好の画題となり、近代以降も画家たちを惹きつけてやまない土地です。このたびの展覧会では、水田美術館開館以降、収集、寄贈された作品のうち、房総の風景が描かれた浮世絵版画を中心に36点を展示いたします。
海運で発展した木更津や銚子、房総三山の一つ鋸山(のこぎりやま)などは房総を代表する名所として知られ、いくつもの浮世絵名所シリーズ、あるいは単独の作品として描き継がれてきました。なかでも風景画で名を成した歌川広重の晩年作《山海見立相撲 上総木更津》などは、広重の2度目の房総旅行での経験が反映されているといわれています。また、幕末から明治にかけて活躍した空飛ぶ浮世絵師、五雲亭貞秀の《利根川東岸弌覧》は、大判6枚続のワイドスクリーンに、利根川(現・江戸川)東岸の風景を鳥瞰図の手法で描いた異色作です。
近代には多くの画家が房総を訪れ、石井柏亭(はくてい)《日本風景版画 下総之部》、吉田博《房州海岸》、近代の広重と異名をとる川瀬巴水(はすい)《手賀沼》など、叙情的な風景版画が生み出されます。さらに現代の房総を描いた作品として、日本画家齊藤惇の大作《九十九里展望》をご覧いただきます。
そのほか、昨年度ご寄贈いただきました高久靄厓(たかくあいがい)《青緑山水図》をご紹介いたします。
近世から現代まで、皆様に親しみある風景、描かれた房総の名所をお楽しみください。