封泥(ふうでい)とは、封印するときに用いられた粘土です。古代中国では封緘(ふうかん)する必要のある器物は、紐で縛ったのち、紐の結び目を粘土で覆い、印を押して封じた人物の役職や姓名を明らかにしました。開封する際には、紐を切るか封泥を破壊するしかありません。こっそり元に戻そうとしても、本来の印を用いなければばれてしまうわけです。
封泥が盛んに用いられたのは秦時代(前221~207年)、前漢時代(前206年~後7年)、新時代(8~23年)の時期です。この時代にはまだ紙がほとんど用いられておらず、文書はおもに木や竹を削って作った札に書きました。書き損じると、小刀で削ればよいので便利ですが、改竄も容易という欠点がありました。そこで重要文書は封泥を用いて厳重に封をする必要があったのです。
この時期の封泥には、政府各部署の公印を押したものや個人の私印を押したものがあり、当時の制度を研究する上で貴重な歴史資料となっています。また当時の封泥は、篆刻作品として見ても質の高いものが少なくなく、愛好家の鑑賞の対象ともなっています。 当館は、中国古代の封泥を600余点収蔵しています。今回はそのうちから200余点を選んで展示し、封泥の世界に皆様をご案内します。
主な出品作品
「皇帝信璽」封泥 秦~前漢時代・前3~前2世紀
阿部房次郎氏寄贈