中村宏(1932- )は、静岡県浜松市に生まれ、1950年代から現在まで、日本の美術界に登場した新しい現代美術の流行に惑わされることなく、一貫して独自の絵画を探究してきた前衛画家です。 1950年代には、激動する戦後社会の動向を見つめた「ルポルタージュ絵画」の代表作家として活躍しました。1960年代から1970年代には、幼少期に体験した機関車や望遠鏡、セーラー服などのフェティッシュなものを主要なモチーフとしながら、風刺的なシュルレアリスム風の絵画を制作しました。1980年代以降は現在まで、メカニズムとしての絵画の在り方を探究する「タブロオ機械」「絵図連鎖」などのシリーズを制作しています。 また、絵画の仕事とともに、装丁や挿画などのイラストレーションの分野でも活動を展開しています。とくに1960年代から1970年代に活躍した文学者や思想家を惹きつけた、印刷を媒体とした紙の上の仕事は、多彩な書籍、雑誌、新聞などで発表され、多くの読者に鮮烈な印象を与えました。 今回の展覧会では、油彩画約100点に、ドローイング、イラストレーション、立体作品(オブジェ)、書籍(装丁、挿画)など約200点を加えた総数300点の作品・資料を通して、前衛画家・中村宏の50年以上に渡る創作活動の全貌を紹介する初の回顧展になります。