日本列島は、四季があり地形の変化に富む気候風土であり、人々は海や山からゆたかな恵みを授かりながら暮らしてきました。とくに磯や浜辺で海の幸をもとめて働く人々や、川辺や湖畔で楽しむ男女の姿は、絵画にもしばしば描かれています。海浜の風景である「浜松図」や「網干図」は、屏風の典型的なテーマであり、古来、神域として敬われた住吉や厳島、天の橋立や三保松原、琵琶湖などは名所絵の屈指の題材となりました。
また海や湖の岸辺は、「浦島太郎」や、「高砂」「松風村雨」などの言い伝えが物語るように、神変や奇跡、伝説が生まれる場所でもあり、社寺の縁起絵や物語絵においても多様な作例を見ることができます。
絵画史においては中国の「独釣図」や「漁楽図」の伝統が、我が国の中世、近世の画家たちに広く影響を与えたことは見逃せません。さらには近世に至り、潮干狩りや、鵜飼、船遊びといった水辺の行楽風俗は,浮世絵などの格好の画題になりました。
今回の展覧会では、海や川や湖と、人々の暮らしがどのようにかかわってきたかについて、関連する絵画を一堂に集めて展観しその様相をさぐります。そこに水辺の風景の美しさと、人々が海や川や湖にたくしてきたさまざまな想いや自然観の変遷をごらんいただければ幸いです。