大辻清司(1923-2001)は、戦後まもない1949年から写真作品の発表を始めました。斎藤義重、阿部展也、瀧口修造ら戦前からの前衛美術家・批評家との出会いをとおして実験的な制作を続け、「実験工房」、「グラフィック集団」の活動に参加するなど、前衛美術と常に関わりながら、写真というメディアへの思考を深めた作家です。 同時に美術ジャーナリズムの第一線で仕事を続け、すぐれた記録を残しています。また、桑沢デザイン研究所、東京造形大学、筑波大学、九州産業大学などで教鞭をとり、若い世代の写真家たちを育て影響を与えただけでなく、彼らの作品へ論評を通して、あたらしい写真観を提示した仕事も見逃せません。 大辻の数々の写真評論は『写真ノート』(美術出版社刊、1989年)にまとめられています。 こうした多方面にわたる大辻の仕事は、写真を使って何が可能かの実験であり、すぐれて現代的な地点に達したものではないでしょうか。 本展では、長く渋谷区に在住した大辻清司が、様々な出会いとコラボレーションから生み出した仕事を回顧し、多面的な活動を紹介します。 写真の多様な機能と魅力を感じていただき、大辻清司が残した現代写真への 豊かな示唆を受け取っていただく機会となります。