1948年東京に生まれた杉本博司は、日本の大学を卒業後アメリカに渡り、ロサンジェルスの大学で写真を学びました。その後ニューヨークに移住し、現代美術作家として写真作品の制作を始めました。杉本の初期の代表作には、自然史博物館のジオラマを撮影した『ジオラマ』(75年~)、全米の映画館で撮影した『劇場』(75年~)、世界の海を撮影した『海景』(80年~)などがあります。90年代後半以降には、杉本は、さらに大きな躍進の時期を迎え、国内外の美術館で数多くの個展が開催され、東京でも大規模な回顧展が成功を収めたことは記憶に新しいところです。
当館は、89年に個展(『近作展5』)を開催して、『ジオラマ』『劇場』『海景』の3シリーズを紹介するなど、早くから杉本の活動に注目してきました。コレクションとしても、『劇場』『海景』『肖像写真』(99年)のシリーズを収集しています。今回の展覧会は、『肖像写真』シリーズの1点に加えて、新たに収蔵された『建築』(97年~)、『観念の形』(04年~)のシリーズをまとめて紹介するものです。
展覧会タイトル「様々なる祖型」は、杉本がそれら3シリーズにおいて、20世紀の歴史的建築、絵画を元にした蝋人形、三次関数の数式を立体化した模型など、相異なる「かたち」にレンズを向けながらも、一貫して、人を魅了する美しさを讃えさせながら、芸術や人間の本質的なものへと、思いを馳せさせる作品をつくり続けている点に由来します。
出品点数は12点と少なめですが、杉本の近年のシリーズをまとめて見る、関西では最初の貴重な機会となります。展示も、建築にも造詣の深い杉本自身のプランに基づくもので、ユニークな会場構成を楽しんでいただけるに違いありません。