このたび竹喬美術館では、徳岡神泉の生誕110年を記念して、神泉の画業の真価を探る特別展を開催します。
徳岡神泉(1896~1972)は生涯にわたり心の目で対象を凝視しつづけた画家です。彼は「対象と自己との間には、自己意識や俗塵などの雑念妄想が雲のように去来している。それらの俗念をはらいのけたとき、はじめて対象即自己となり、遂には自己もなく対象そのものもない世界に到達しうる。その境地が真に自分の求める世界だと信じた」と語っています。神泉の芸術は、この忘我の唯一絶対境を求める歩みであったといえます。
今回の展覧会では、この独自な制作姿勢により創造された代表的な作品を丁寧に検討して、狭義には福田平八郎や小野竹喬などとの比較により、広義には坂本繁二郎やマーク・ロスコなどとの比較により、世界の現代美術の流れにおいて、いかなる存在であったかを明らかにしたいと考えます。そのなかで、戦後の代表作に対して単に幽玄甘美という言葉をあたえるのではなく、「悉有仏性」と評し得る神泉芸術の宗教性を改めて考え直してみたいと思います。
神泉の類い希な凝視の眼によって捉えられた至純な世界を、多くの方々にご理解いただければ幸いです。