近代日本の生んだ、たぐい稀な芸術家・棟方志功(明治36年~昭和50年)。没後30年を経た現在でもその人気は高く、「世界のムナカタ」として国際的にも評価されています。独学で油絵や版画を習得していた棟方は、昭和11年、日本民藝館の生まれたまさにその年、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司ら民藝運動の指導者たちの知遇を得、民藝の思想に出会いました。
以来、柳宗悦が亡くなるまでの25年間、棟方は「美は創り出すのではなく、与えられるものだ。自分が仕事をするのではなく、自分を超えた何か大きな力が仕事をなしてくれるのだ」という柳が提唱した「他力の美」を根底に、自らの信じる「美」を追求していったのです。そしてこの期間、棟方は作品が出来るとすべてを真っ先に民藝館に届けたのでした。その中から、柳の鑑識眼によって厳選された棟方作品は、他に追随を許さぬ最高の完成度で、観るものに感動を与えます。同じ板画作品でも初摺りの持つ力は際立って強く、厳かで、棟方志功の本質がむき出たものということができましょう。
この展覧会では、これらの貴重な初摺り板画や倭画(肉筆画)、書、油画(油絵)などの優品を「出会い」「祈り」「文学」「自然」「想い」の5つの主題に分けて展示します。そして、いち早く棟方の画才を見出し、彼に芸術上の様々な啓示や助言を与えた柳の書や書簡、河井・濱田の陶器作品も比較展示し、彼らの交流の軌跡やそれぞれの美への想いをご紹介します。
森羅万象の輝きに感応し、祈りの心や詩歌の響きに呼応して、純粋無垢な人間の魂を一心に彫りつづけた「魂の板画家」棟方志功。そして、師であり、先輩であり、美の求道者としての同士でもあった、柳宗悦・河井寛次郎・濱田庄司。彼らの生涯にわたる「眼と心」の軌跡を辿りながら、互いが求め与えた美の世界を感じ取っていただければ幸いです。