土方久功(ひじかた ひさかつ、1900~1977)の叔父久元は、土佐藩郷士として明治維新で活躍し、明治政府では農商務大臣、宮内大臣を歴任した元勲であり、久元の孫久敬(与志)は演出家として有名です。久功は、久元の弟で陸軍将校の父と海軍大将柴山矢八の娘である母のもと4人兄弟の次男として東京で生まれ、学習院初等科、中等科で学びましたが、父の死後経済的に困窮し、高等科を断念しました。
その後、彫刻を東京美術学校で学んだ久功は、卒業後に出品した二科展、院展の落選が契機となり、日本美術界の動向に閉塞感を抱きました。そして、思春期から世界の民俗文化に関心を持った久功は、日本美術界が傾倒した近代西洋美術に反映するアフリカや南洋などの未開文化を自己の美術表現に直接吸収するため、1929年、日本の委任統治領だったパラオ諸島へ渡りました。久功は、昔話の収録、民芸品の収集などの野外調査を行いながら島々を巡り、未開の孤島サタワルでは約7年間も生活しました。また、調査と共にスケッチ活動も精力的に実施し、特にパラオ芸術のアバイ絵に魅了された久功は、木彫レリーフに独創性を発揮し、金属刃を縛り付けた木製の手斧カイバックルを用いて南洋樹を彫り、素朴なレリーフを数多く制作しました。
太平洋戦争直前に帰国した久功は、引き続き木彫レリーフや彫刻の制作を行い、日本と南洋を融合した表現の成果を個展をはじめ、日本アンデパンダン展、読売アンデパンダン展、新樹会展、新しき村展などで積極的に発表しました。さらに、執筆活動及び著作に掲載する挿絵の制作を旺盛に行い、『パラオの神話伝説』『流木』『文化の果にて』『青蜥蜴の夢』など南洋を記録した著作をはじめ、絵本では、南洋を題材にした絵本『おによりつよいおれまーい』、動物を扱ったユーモラスな絵本『ゆかいなさんぽ』『ぶたぶたくんのおかいもの』、詩集では、『非詩集ボロ』『旅・庭・昔』『鵯と共に』などの多様な著作を出版しました。晩年は、身近なものを題材に水彩画を描き、特に過去に制作した南洋作品を基にした水彩画を、明るい色彩と力強い描線で表現しました。
本展は、土方久功の彫刻、木彫レリーフ、油絵、水彩画、素描など館蔵品の中から約300点を紹介するものです。