「百工比照」(ヒャクコウヒショウ)とは、加賀藩五代藩主前田綱紀が収集・整理・分類した工芸全般にわたる資料の集大成で、前田綱紀自らが名付けたものです。読んで字のごとく、「百工」とは諸種の工芸、あるいは工匠の意味であり、「比照」とは比較対照するという意味です。
専門の工人に命じて各種各様の標本見本を作らせたもの、各地の産物を購入したもの、建築物の一部に使用されていたような既存の物品を回収したものなどの実物資料と、実物ではなく図示したり、ひな型を作ったり、今日のデザイン見本帳のように描かれたものからなっており、江戸時代前期から中期にかけて、いわゆる近世前半における工芸技術を今日に伝えるものとして、一括して重要文化財に指定されています。
綱紀は祖父である三代利常と並び、もっとも文化事業に意を注いだ人物として知られています。綱紀の時代には、数多くの美術工芸作品を収集しているのですが、手に入らないものは写本や模造品を作成し、それらを整理分類するという、今日のいわば、図書館や博物館での資料収集・整理・分類に近い事業を行っているのが特徴です。したがって、この「百工比照」は、工芸における綱紀のそうした面をもっともよく表しているコレクションということができます。石川の工芸の源ともいうべき「百工比照」の大々的な展示は、平成5年以来となります。ぜひこの機会にご鑑賞ください。