国吉康雄(1889-1953)は、岡山市に生まれ、17歳の年に渡米の後、米国で活躍した画家です。ロス・アンジェルスそしてニューヨークで苦学の後、1920年代初頭に、茶褐色を基調とした、米国のフォークアートなどに通ずる素朴な作風によって、画壇に登場しました。やがて国吉は二度にわたって渡欧し、パスキンらとの交流を経ながら、より写実的なスタイルによって、憂いを帯びた女性像を描くようになりました。
国吉は、日本への短期の帰国を一度だけ挟みながらも、生涯にわたって、アメリカ社会のなかで、画家として生き抜くことを選択しました。それは日米両国を引き裂いたアジア太平洋戦争の間も、彼にとっては変わることのない信念でしたが、米国に生きる日本人画家として、苦しい立場に置かれることとなりました。この時期の複雑な暗喩に満ちた彼の作品には、このような状況下で苦悩する画家自身の心情が投影されています。この苦難の時代を経て、戦後に至り、国吉は現存作家として初めてホイットニー美術館で個展を開くなど、当時の米国を代表する作家として高い評価を得るに至りました。
岡山県立美術館では、一昨年4月より、岡山市在住の福武總一郎氏から、国吉康雄作品および関連資料からなる、大規模なコレクションの寄託を受けたことを機に、以前にも増して重点を置く形で、国吉康雄に関する調査研究および国吉作品の展示公開に努めて参りました。本展覧会は、これまでの調査研究を踏まえ、絵画のみならず版画・素描・写真など、国吉の幅広い制作活動を視野に入れながら、同コレクションの全貌を、国内各地で所蔵の優れた国吉の作品とともにご紹介することによって、国吉の制作活動の全体像をたどります。そのうえで、国吉の作品をめぐる様々な特質について、深く考察していきます。