「ヒロシマ」(1958)、「筑豊のこどもたち」(1960)などで知られる土門拳は、その生涯に日本の彫刻を数多く撮影し、その対象は古代の土偶・はにわから現代彫刻にまでおよんでいます。なかでも、わが国の彫刻史において重要な位置を占める仏教彫刻の撮影は戦前期(1939年、あるいは40年)に取材が開始され、「室生寺」(1954)・「古寺巡礼」(1963-75)といった業績に結実しました。本展では、土門拳が1979年に病に倒れる直前まで編集作業を進めていた最後の作品集「日本の彫刻」(1979-80)が対象としていた、飛鳥時代から鎌倉・南北朝時代にかけての約850年の間に制作された彫刻の中から、各時代を代表する国宝・重文などを中心とした約80展の彫刻を130カットの写真で紹介するものです。すぐれた彫刻と土門拳との出会いによって生まれた写真作品は、彫刻の魅力を引き出しながら、同時に写真家の視線を強く感じさせるものとなっています。その意味で土門の没後10年後に開催される本展は、通覧することが困難な我が国の彫刻の歩みの一端を紹介するこころみであると同時に、現代を駆け抜けたひとりの写真家の仕事の回顧でもあります。