春の女神―春をつげる蝶 "ギフチョウ" の別称
早春の風にのって、晴れた日だけこつぜんと現われすぐに姿をけすこの蝶は、夢幻の美しさを野山に漂わせます。
ミュゼ浜口陽三の春コレクション展では、銅版画家浜口陽三(1909-2000)と夫人で銅版画家の南桂子(1911-2004)蝶の版画作品を一挙に約20点を公開します。
滑らかなビロード生地のような版画をうみだした浜口の作品は、17世紀半ばにヨーロッパで発明されたメゾチント技法に色を陽三が加えた「カラーメゾチント」技法で行われたものです。一方、詩を奏でるような南桂子の作品は、銅版の表面を加工し、鋭い針の道具で描画した後、腐食を行う「エッチング」と呼ばれる技法で制作を行いました。
技法と表現が全くことなるふたりの「蝶」。どのような制作のひみつがあったのか、浜口夫妻が館に遺した雑誌の切り抜き、生物・植物の図鑑、みずからが撮影した写真と初公開の浜口陽三幼年期のデッサン画から探ります。
今回は、採取した実物の蝶をスキャンして拡大作品を制作している橋本典久+scopeの写真作品と実物の『蝶』も参考展示します。自然界で生息していた蝶が浜口と南の手によってどうのようにして銅版の上で永遠の生命を宿されたか、作品の内側に際限なくひろがる南の凝縮された宇宙を知る機会になることでしょう。
今シーズンでは、「てんとう虫」「貝」「さくらんぼ」「鳥」などのふたりが小さな生物に向けたやさしい眼差しの作品約40点もあわせてご堪能ください。