本展覧会では、「宝物」の持つ、見ただけで人の感覚を凍結させてしまうような、人間の本能に訴える美しさを持った作品を一同に集めた宝箱のような空間を演出します。
「宝物」とは何か?ここではその定義を、
1)高価であってもなくても、持っていること自体が満足なもの。
2)大切にしまっておいて、時々出してきては眺め、そのたびに幸せな気持ちになれるような力を持ったもの。
とします。それは、何かの役に立つものである必要もありません。むしろ、普段の生活には必要のないものだからこそ、ルーティンの生活にほんのひととき一筋の輝きを与えてくれるのです。
それは、芸術作品が持つ力に似ています。近年顕著な「きれいなだけがアートではない」というロジックが一般的になった現代芸術においては、見た目の美しさだけではなく、意表をつくようなインパクト、力強いコンセプト、時に対社会的なメッセージ性、ブラックユーモア、さらには「汚れ芸」とも言える様な表現が芸術作品の要素として浸透してきました。しかしながら、美しくあることは、間違いなく芸術作品の永遠の命題の一つであり、美しさの追求の果てに生まれた芸術作品は、我々を殺伐とした日常から別次元へといざなってくれます。
本展覧会では、各々の核にあるものを「美」を通じて表現するアーティストたちの作品によって、訪れた人々がそれぞれに宝箱に迷い込むような陶酔感、「宝物」に出会うときめきを感じられる空間を構成します。
石川結介によるダイヤモンドをモチーフとした壁画が空間に光を放ち、藤芳あいは、水をモチーフにした透明で清々しい新作の立体作品を披露します。これは、横浜美術館で展示中(「水の情景‐モネ、大観から現代まで」展、4/21?7/1)の「Swimming Pool」の対になるとも位置づけられる作品で、えぐりとられた水のかけらというコンセプトによる作品です。また、長谷川ちか子による、アマゾンに生息する美しい毒ガエルのパターンをモチーフとした宝石のような作品のほかに、青木克世による緻密で繊細な装飾の施された白い陶の作品、ノスタルジックな物語を閉じ込めた勝本みつるのオブジェ、極彩色を放つ久保田珠美の個性的な人形たち、福田尚代による魅惑的な文字の世界を表現した作品、さまざまな物質の表面の美しさを追求している岩井久美子、芳木麻里絵の何層も積み重ねられたシルクスクリーンの作品をフィーチャーいたします。
「美しさ」それ事体が力を持つ事の可能性を示す本展覧会を是非ともご紹介下さいますよう、よろしくお願い申し上げます。