シャガールがはじめて手がけた色彩リトグラフとして名高い版画集《アラビア夜話からの4つの物語》、通称《アラビアンナイト》は、別名「千一夜物語」ともいわれる膨大な原テキストからシャガールが四つの物語を選び、イメージ化したものです。
「船乗りシンドバッドの冒険」や「アラジンと魔法のランプ」など、世界的にも広く知られた物語ではなく、シャガールが選んだのは、「カマル・アル・ザマンと宝石商の妻」、「海から生まれたユルナールとその子ペルシア王バドル・バシム」など、ほとんど知られることのないお話です。その分、シャガールは思う存分に空想の翼を広げ、絢爛な色使いで「色彩の魔術師」の面目を躍如しました。
当館が所蔵しているシリーズは、完成までに重ねられる段階のすべての試し刷りが添えられ、さらに普及版には付されていない13番目の作品までそろった豪華版です。今回はその試し刷りもあわせ、シャガールが夢を馳せた東洋の幻の世界をご紹介します。