藤田喬平は、ガラス造形作家として日本のみならず欧米にも広くその名を知られています。数多く残された作品の中でも、最も親しまれているのが一連の「飾筥」(かざりばこ)のシリーズでしょう。これは、日本の伝統的な美の世界を、ガラスという近代的な素材によって、かつシンプルな箱型の形態で表現した、ユニークな造形と言えます。
その一方で、作家はイタリアのベニスに赴き、花器を始めとする器物や、大型のオブジェなどを製作しました。レース模様や色とりどりのケイン(ガラス棒)を用いた、繊細かつ華やかな器は、見るものを魅了してやみません。
今回は、こうした「飾筥」や「ベニス花瓶」に加えて、作家が1980年代初めにスウェーデンで手がけた、無色透明のクリスタルガラスのオブジェ類もあわせて出品されます。作家が北欧の地に赴いて製作したのはこの1回限りでしたが、クリスタルガラスという素材に深く関心を寄せ、情熱を傾けて取り組んだ興味深い作品です。
本展は、2005年に作家のご遺族の方から旧加茂村へ寄贈された、約30点の貴重な作品で構成されます。
この展覧会をとおして、ガラス造形作家藤田喬平の幅広い造形世界を知っていただく機械を提供できれば幸いです。