写真文化は今、デジタル隆盛の時代を迎えています。カメラはフィルムから解放され、カメラ付き携帯電話の普及は写真撮影をごく日常的な行為としました。デジタル化によって撮影のコストは安価になる一方で、写真をプリントし、保存する動機は希薄になっています。写真を撮り、撮られ、残していく意味は確実に変化しているのです。 2006年夏、東京のある旧家から4冊の古いスクラップブックが発見されました。収められていたのは50年以上前に撮影された大量のネガとプリント。撮影者は37歳の若さでこの世を去ったひとりの青年でした。彼は中判カメラを使いながら、家族の肖像を中心に昭和30年前後の情景を撮影し、その1コマ1コマをスクラップブックに整理していました。展覧会『mituso~4冊のスクラップブックから~』は、彼が遺したネガとプリントを題材に写真展を構成することで、写真の過去と現在、そして未来をつなぐ試みを行います。 まず、石井孝典と塩澤秀樹の二人の写真家がこのネガを手作業によってプリントします。手焼きプリントを重要な表現手段として位置づける彼らは、色褪せた写真から得た衝動を、写真表現の基本的な行為である暗室作業によって表現します。ネガの存在しない小さなプリントについては写真現像の専門企業である堀内カラーが最新の「ラムダプリント」によって出力。先端のデジタル技術と極めて精細なレーザープリンタを駆使し、50年以上前に焼き込まれた世界を再生します。 本展覧会は、ある無名の人物が半世紀前に撮影した写真を、現代に生きる写真の専門家たちがプリントによって再表現することで、「写真とは何か」を問う試みです。