夜になっても街頭やネオンで暗くならない街-東京。ここでは深い闇の中で一人静かに瞑想したり、闇の孤独の中で神経を研ぎ澄ます機会は限りなく少なくなっています。24時間動き続け、完全な闇に覆われることのなくなった現在の私たちにとって、昔、夜空の星に目を奪われたこと、果てしない闇の中の深さにおびえたことは、もはや小さい頃のはるか遠い記憶なのかもしれません。
今回の特集展示では、わたしたちの周囲から消えつつある様々な「闇」に目を留めて、忘れ去られようとしているその魅力、怖さ、ポテンシャリティについて再考いたします。闇の中に光る月や星の表象に始まり、私たちが隠蔽しようとしてきた“心の中の闇”の風景まで、「闇」をイメージさせる作品をご覧いただきながら鑑賞者もともに闇の中に身を置き、静かに自分を見つめるひと時を過ごしていただければ幸いです。
闇への憧憬
古代より人間は夜の闇の中で、空を見上げ、そこにまたたく星や月を鑑賞し物語を紡いできました。ここでは駒井哲郎の《CONSTELLATION(星座)》など、月の満ち欠け、星座など人々に愛されてきた夜景を描いた作品を紹介します。
闇とエロス
新しい生命が宿り、生まれるのは、まばゆい光の中ではなく、物音一つしない闇の中なのかもしれません。何かが生成している状態----エロスを想起させる作品を暗い空間の中で鑑賞していただきます。
絵画空間の中の闇
芸術家たちが挑んだ黒という色。それは時として色彩や形態を凌駕し圧倒的な存在感を示します。ここでは村上友晴の《十字架の道》など、絵画の中の闇ともいえる黒の表現を紹介します。
死と隣り合わせの闇
近代以降、人間は「闇」を排除する生活を理想としてきました。しかし、消しても消えない闇は私たちの周りにむしろ増殖しているかもしれません。積み上げた630個のビスケット缶に死者の写真を貼ったボルタンスキーの《死んだスイス人の資料》などを通して、社会が隠蔽しようとしている心の闇に迫ります。
闇から始まる
人間は闇から来て、闇へと還っていく存在であるとしたら、闇は必ずしも終わりではなく始まりとも言えるのではないでしょうか。闇の中で生の時間と死の時間が交錯するかのように数字が点滅する、宮島達男の《それは変化しつづける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》を展示・・・