「もーやん」こと元永定正(1922~)、「えっちゃん」こと中辻悦子(1937~)の夫妻は、ともに現代美術の第一線で活躍しながら、30年にわたり絵本製作にも意欲的に取り組んできました。
もと前衛集団「具体美術協会」のメンバーであった元永は、絵本においても既成概念にとらわれない精神を追求、『もこ もこもこ』(文・谷川俊太郎/1977)、『もけら もけら』(文・山下洋輔、構成・中辻悦子/1990)などの斬新な作品によって絵本界に新風を巻き起こしました。作者曰く「へんな絵」と言葉のリズム感に満ちたこれらの絵本は、世代を超えて広く親しまれています。また昨年、「具体」時代の先駆的作品《作品一文字》(1956)を展開させた『ちんろろきしし』を発表。無意味な文字列と抽象画との出会いによって、新たな境地を切り開きました。
他方、中辻は、グラフィックデザイナーを経て、1960年代から本格的に創作を開始しました。シンプルな造形による豊かな表現力と、「ポコピン」人形に代表される不思議な世界観は、絵本においてもその魅力を発揮しています。『いろいろしかく』(1988)や『まる まる』(1998)は形の面白さを楽しく伝え、写真やコラージュを駆使した『よるのようちえん』(文・谷川俊太郎/1998)では、ひと気のない夜の幼稚園を舞台に、「すっとさん」や「さっとさん」ら、ゆめの世界の子どもたちが遊び回ります。伊丹市内の幼稚園がモデルになったこの作品は、第17回ブラティスラヴァ世界絵本原画展(1999)でグランプリを獲得しました。
本展では、つねに冒険心をもって創作活動に取り組んできた二人の絵本を、原画約300点(元永約210点、中辻約90点)によって紹介します。ふつうとはちょっと違う、へんてこで楽しい「絵本の絵=ええほんのえ」の世界を、幅広い世代に楽しんでいただければ幸いです。