美術の流れを見ると、そしてひとつひとつの作品をじっくり見ていくと、そこからはさまざまな事柄が浮かびだしてきます。作品そのものを味わい、また作家の考えや生き方に共感する享受の仕方のほかにも、美術の楽しみは多様に広がっているものです。
この展覧会「時代と美術の多面体-近代の成立期に光をあてて-」は、作品を透かして見えてくる時代の容貌、他の芸術分野と美術との関わり、さらには作品にこめられた作家の思いなど、作品が語りかけることに耳を傾けながら、いくつかの切り口をもうけて時代と美術が織りなす相を観察していこうとの意図の元に構成されています。また書籍資料や解説なども加えて、近代という時代と美術とがどういう絡み合いを見せ、どんな断面を輝かせているかを楽しもうというものです。その切り口として、8つのテーマを立て、主として明治末から昭和始めにかけての日本近代の成立期を中心に、美術に表われた多彩な諸相をうかがいます。