斎藤佳三(1887-1955)は、図案家、作曲家、舞台美術家、演出家、あるいはドイツ表現主義の紹介者として知られます。東京音楽学校師範科へ入学したのち、舞台美術に触れ東京美術学校図案科へと再入学、在学中には生涯の友となる山田耕筰を始め、小山内薫、川路柳紅、岡田三郎助ら、音楽を美術の境界を超えた交流を行います。1913年に訪れたドイツでは、ベルリンを拠点に同時代の西欧芸術を直接受容、西欧の表現主義と、ジャンルを超えた総合的な芸術表現への関心の高まりという2つの重要な動向を吸収した斎藤佳三は、帰国後多面的な活動によって芸術の総合を自覚的に目指したのです。また、1923年には美校、及び、政府の嘱託として教育、著作権法の調査のために再渡独しています。また、自ら考案した「リズム模様」「表現模様」をはじめとする様々なデザイン、帝展へのモデル・ルームの出品等は、彼自身が触発された海外の動向を、いかに日本人の生活の中に取り込んでゆくかという試みの表れでもありました。日本と西洋の様式をいかに美しく融合させ、生活の中に調和させていくか、斎藤は、総合芸術の視野を持って、“生活芸術”に取り組む制作姿勢を通したのです。
東京藝術大学大学美術館は、平成17年度に斎藤佳三関係資料の寄贈を受けました。これらは、舞台衣装デザイン画、自筆楽譜、舞踊関係資料、着物、帝展出品作の図面類、教育関係資料、書簡類など、遺族が保管されてきた多彩なものです。今回の展覧会では、それらの資料の中から約300点を選び、斎藤佳三の軌跡を追います。
また、斎藤佳三の自筆楽譜の中から数曲を収録しました。会場内での試聴をお楽しみください。