当館が所蔵するルヌアール作品は、明治初期、ジャポニスムの波に乗ってパリで日本美術商として活躍した林忠正(1853~1906)が画家本人から譲られたものです。林は浮世絵など日本の古美術を欧米に輸出し、当時活躍していた芸術家たちと交わり、彼らの作品を数多く収集していますが、林の西洋美術収集のきっかけが、まさにルヌアールの作品でした。林は、この画家のデッサンはその驚くべき多様性にもかかわらず、画家自身の人間性そのものであることを感じ、鋭い自然観察力と非凡な観察者精神、そしてそれを具現化する確かなデッサン力に感嘆したといわれています。
日本は外国の美術を受け入れ、消化しながら独自の美術を作り上げてきました。ところが、この模倣の繰り返しが当時の日本人芸術家たちに行き詰まりをもたらしていると感じた林は、その解消策として、西洋美術の精神を導入し、新しい流れをつくるべきであると提案し、日本に西洋美術館を設立する構想を抱いていました。惜しくも実現前に亡くなりましたが、その意図を汲み、遺族が大正4年に当館に寄贈したルヌアール作品は他の画家による油彩のルヌアール像一点を含め、148点にのぼります。このたび、林忠正の歿後百年に際し、ルヌアール関連約百点を前後期に分けて訳50点ずつご紹介いたします。自然の観察によってのみ、真の芸術作品を生み出すことができると信じた西洋美術大収集家林忠正のコレクションの原点となる世界をお楽しみください。