本年は我が国を代表する映画監督、衣笠貞之助(1896-1982)の生誕110周年にあたります。もともと舞台の女形であった衣笠は1917年に日活向島撮影所に招かれ、新派映画の女形として映画界への一歩を踏み出しました。また、映画女優の台頭に伴い監督業に転向してからは、前衛的な無声映画「狂った一頁」(1926)、「十字路」(1928)を発表した進歩的シネアストとして、あるいは二枚目スター林長二郎(後の長谷川一夫)を育て記録的ヒット作「雪之丞変化」(1935-36)を生んだ松竹時代劇の主力監督として、さらに戦後はイーストマン・カラーによる「地獄門」(1953)で日本映画に初のカンヌ映画祭グランプリをもたらした世界的巨匠として、衣笠は常に時代の先頭を走りながら日本映画史にいくつもの新たな頁を刻みました。
このたびの展覧会は、衣笠本人の遺品にフィルムセンターが所蔵する映画資料を加え、日本映画が誇る《巨人》の足跡をたどるものであり、「十字路」完成後の衣笠が海外映画界視察のためソビエト、ドイツ等を訪問した際の珍しい資料も交えての開催となります。皆様のご来場をお待ちしております。