わが国における高僧の書のはじまりは、弘法大師空海にあるといっても過言ではありません。後世における影響の多大さのみならず、書道史上における空海の偉大さは三筆の一人にも挙げられることからも多言を要しません。
空海の書では、「灌頂歴名」(国宝、神護寺蔵)を展示いたします。これは、伝教大師最澄の名も見えることから歴史上も有名な記録ですが、もともとこの記録は空海の手控えとして書かれたと思われます。ということは、人目に触れることを意識せずに書かれたということになりますから、空海のつねの字が見て取れる作品ということになります。また源信らの署名がある「霊山院釈迦堂毎日作法」(重文、聖衆来迎寺蔵)なども人目を意識しない書であるといえます。
鎌倉時代では、高山寺の明恵の篤い釈迦信仰が、仏教の故郷、天竺(印度)への思いを駆り立てます。そして、親鸞は晩年の二十年ぐらいを費やして、主著『教行信証』の推敲を重ねています。これらによって、仏道を求め、研鑽を積み、自らの信仰を獲得した足跡を目の当たりにすることができます。
これら歴史に名を留めた高僧たちの書を心ゆくまでご鑑賞ください。