群馬県高崎市出身で、井上工業社長を務められた実業家、井上房一郎氏(1898~1993)は、1920年代にパリへ留学されるなど芸術文化への造詣が深く、群馬県の芸術文化の推進者となる人物である。戦前に来日したブルーノ・タウトの後援、映画「こゝに泉あり」で知られる群馬交響楽団の前身・高崎市民オーケストラの設立、アントニン・レーモンド設計による群馬音楽センターの建設、高崎哲学堂の設立など様々な文化支援の活動は、経済人による企業メセナのはしりといえよう。その文化支援に対する功績は不況下である現代にこそ顕彰すべきものである。
そして1962年、氏は(財)群馬県立美術館設立準備会を設立し、収集された200余展もの古美術作品を「戸方庵井上コレクション」として同館に寄贈。1974年に群馬県立近代美術館が開館すると、その後も作品の寄贈を続けられた。
本コレクションは、室町時代の名品「伝蛇足筆 山水図 二幅」を含む、質の高い水墨画コレクションや中国絵画によって知られた全国でも有数の良質なコレクションである。
本展では、多彩な内容を含むコレクションより、中国絵画・室町水墨画・琳派・南画・近世禅僧画ほか、重要文化財を含む名品69点を公開する。群馬県外において、本コレクションのまとまった公開は初の機会となる。(会期中作品の一部を陳列替。)
一個人の芸術への信念の結晶である、「戸方庵井上コレクション」。その水墨画の世界を充分堪能して頂きたい。