「写実」という言葉は、物事をありのままにうつすことを指します。美術の世界では、19世紀なかば、クールベらが唱えた、歴史や神話を描くのではなく、目の前の現実を理想化せずに、そのまま表現しようとする「写実主義(レアリスム)」という用語もあります。
長い西洋絵画の歴史を振り返ると、「絵画」という平面のなかに立体である「現実の世界」を表現するための遠近法や陰影法、より対象の質感をリアルに表現するための細密描写など、現実の事物をそっくりに描くための技術が発達してきました。幕末から明治にかけて、我が国に西洋絵画、いわゆる洋画が伝わったときも、こうした技術を駆使した、それまで見たことのない「迫真」の表現に驚き、多くの画家がその技術を学んだのです。
さらに、20世紀に入ると、そうした写実の技術は、夢や幻覚など意識下の世界を描くシュルレアリスムや、卓越した技巧で極めて日常的な光景を克明に描くスーパーリアリズムなど、新たな絵画世界に引き継がれ、その独自の表現を支えています。
ここでは、幕末の箱館で洋画に触れ、我が国の洋画の先駆けとなった横山松三郎から、現在活躍する道南地方ゆかりの作家まで、その「写実の系譜」を紹介します。