アール・ヌーヴォー期にジュエリー宝飾で名実ともに頂点を極めたルネ・ラリック(1860-1945)は、40歳を過ぎてから本格的なガラス工芸へと転向を果たし、アール・デコを代表するガラスの大家として一時代を築きました。本展では、ルネ・ラリックのガラス制作の軌跡をたどります。
フランス、シャンパーニュ地方の自然豊かな地で生まれたラリックは、植物や女神像のモチーフで人気を博す一方、ジャポニズムの影響を受け、蝶や草花、小鳥や虫といった日本的なテーマや日本古来の文様を作品に投影し、創作の幅を広げていきます。技法面でも、独特な乳白色のオパルセント・ガラスや彫刻的な造形、宝飾作家時代の経験を生かした華麗なデザインが人々を強く惹き付けました。1900年のパリ万国博覧会で注目を浴びた後は、香水商コティによる香水瓶の依頼をきっかけに、ガラス作品の量産に着手します。時代は政治的にも経済的にも激しい変動期を迎えたパリ。ライフスタイルの変化にいち早く適応した彼は、香水瓶、カーマスコット、ランプシェード、置き時計といった新たな産業製品を多数手がけ、量産と芸術のバランスを絶妙に保った制作を続けました。そしてアール・デコ全盛の1925年、パリで開催された「現代装飾美術産業美術国際博覧会」でラリック芸術は集大成を迎えます。注力したパヴィリオン「ルネ・ラリック館」において、室内外にガラスを大胆に活用し、ガラスを使った空間のトータルコーディネートを実現して見せたのです。ここに、一点制作の小さなジュエリーから始まったルネ・ラリックの創作はガラスによる総合空間芸術まで発展し大きく開花しました。
本展では、花瓶《バッカスの巫女》、香水瓶《彼女らの魂》をはじめ、花瓶、香水瓶、化粧道具、アクセサリー、食器、ランプ、立像、カーマスコットなどガラス作品の代表作約200点を一堂に展観し、スタイリッシュで透明感溢れるルネ・ラリックのガラスの世界に迫ります。