『薬師寺東塔は、日本の塔の中で、最も奇抜な、変化に富んだ、剛柔繁簡かねそなわった、見れども飽かぬ美しい塔であるとぼくは思う。今に残る白鳳時代唯一の建築として貴重なばかりではなく、その豪壮雄偉な建築美において、日本一の塔といってよい。』
『薬師寺の高田好胤さんは、ぼくのことを「撮影の亡者」といった。亡者とは、魂魄が冥土にさまよったまま成仏しないことだから、けだし撮影におけるぼくの往生際の悪さを評してあまりあるというものであろう。』
土門拳の「古寺巡礼」シリーズのなかでも、薬師寺は何度も繰り返し撮影されたお寺です。東塔を始め、東院堂観音菩薩立像(聖観音)、金堂薬師如来坐像など、美しさと強さ溢れる薬師寺の魅力が、ときに遠望、あるいはクローズアップといった、土門独特のカメラアイで捉えられています。