日本人は古来より、生活のあらゆるところに紙を利用してきました。日本を訪れた外国人は和紙の質の高さと共に、その用途の広さに驚きました。衣服もその一つで、いくつもの記録に紙の衣服のことが記されています。
紙を素材とした衣服には、大きく「紙衣(かみこ)」と「紙布(しふ)」の2種類があります。
芭蕉も愛用していたという「紙衣」は、丈夫な厚手の和紙をコンニャク糊で貼り合せ柿渋などを塗って丈夫にし、揉んだものを着物や帯に仕立てたものです。元々は僧侶の衣服でしたが、戦国武将たちの陣羽織などにも用いられるようになります。手ざわりがやわらかく、軽くて暖かいので、紙が広く使われるようになった江戸時代には、庶民の防寒着ともなりました。
一方の「紙布」は、細く切った和紙にヨリをかけて作った紙糸を、織って布にしたもので、江戸時代に木綿や麻が貴重品だった山陰や東北地方などで生産されていました。タテ・ヨコ共に紙糸を用いて織った「諸(もろ)紙布」のほか、タテ糸に絹糸や綿糸、ヨコ糸に紙糸を用いた「絹紙布」「綿紙布」などがあります。軽く丈夫で、汗をよく吸い肌ざわりがよいので、主に夏の衣料品になりました。紙布は洗濯ができ、洗う程にやわらかく、肌ざわりがよくなるそうです。
この展示では紙衣と紙布を中心に、現代の最新技術によって生み出される紙の服も併せてご紹介します。紙を着るという日本で育まれてきた文化を見直し、紙という素材の持つ奥深さに触れていただければ幸いです。