本展で紹介する約100点のアンティークドールは、19世紀後半から20世紀初頭にかけ、フランスやドイツで製作されたビスクドールと呼ばれる人形です。やわらかな透明感のあるビスク(二度焼きした磁器)でつくられた顔、手彩色ガラスの神秘的な瞳、人間のように間接が動くボディ、そして豪華なレースやシルクをつかった手縫いの衣裳・・・・・・。アンティークドールの黄金時代を築いたエミール・ジュモーやブリューをはじめとする名高い人形工房の、精緻な技術や一途な仕事振りがうかがえます。それ故製作には多くの手間を要し、20世紀に入り廉価な人形が量産されはじめると、次第に姿を消していきました。しかし現代においては、アンティークドールの希少性と完成度の高さは美術品として評価され、往時と変わらず人々を惹きつけています。
昭和洋画史に名を残す巨匠たちも、これらの人形に魅了され、多くの作品を描きました。本展では、小出樽重、児玉幸雄、田村孝之介らの描く、人形をテーマとした作品約20点を、併せて展示いたします。また本年初夏、パリで個展を開催し好評を博した野本将文の写真作品約50点を紹介、彼のレンズが捉えた作品からは、人形たちのもうひとつの姿が浮かびあがってきます。
深く美しい眼差しで、私たちに夢の数々を語りかけるアンティークドール、そして絵筆やレンズで再現された人形たちとの饗宴を、ご鑑賞頂きたいと存じます。