ヨーロッパでは、14世紀末頃に宗教的主題を描くものとして、あるいは遊戯用カルタの絵柄として木版が登場して以来、エッチング、エングレーヴィング、メゾチント、アクアチントなどの銅版、あるいはリトグラフ、シルクスクリーン、リノカットなど、さまざまな技法を発展させてきました。
例えばドイツ美術の近代の幕開けを緻密な木版画でしるしたアルブレヒト・デューラー。あるいは《戦争の惨禍》により戦争の残虐性と横暴をエッチングで克明に描出し緊密な画面を作り上げたジャック・カロ。ダンテらの詩文に想を得てエングレーヴィングにより独自のイメージを象徴的に表現したウィリアム・ブレイク。そして20世紀のキリコやエルンストなどのシュルレアリスムの画家たちに強い影響を与えたといわれるマックス・クリンガーなど、こうしたさまざまな版画技法の発展を背景に、ヨーロッパでは多くの優れた画家たちが版画に取り組みました。しかも彼らの版画は油彩画の副次的なものとしてではなく、いずれも自立した作品として呈示されています。
本展では、当館コレクションの中から、その他にブリューゲル、ティエポロ、マネなど、16作家の選りすぐった作品約70点により、ヨーロッパ版画の多様性を概観しながら、人々の生活に身近なものとして存在してきた版画の魅力を紹介します。