指輪や首飾りを身につける習慣が長い間途絶えていた日本で、ジュエリーが用いられるようになったのは、明治時代以降、服装の西欧化が進んだ時代のなかでのことでした。作家がジュエリーを製作の対象として意識し始めるのは、それよりさらに遅れ、ようやく昭和に入った頃からです。以後、今日まで芸術の一分野としての地位を求めて、活発な制作活動が繰り広げられてきました。そのなかで、同時代の思想や芸術の動向を吸収しつつ
「ジュエリー」は多くの概念の変遷を遂げました。
本展では、この流を、①美を念として:戦前期、②ジュエリーの地位:1950年代~70年代、③素材の解放:1970年~1990年代、④変わる身体:1990年代以降という4つの大きなテーマのもとでご覧いただきます。東京国立近代美術館工芸館では、開館以来ジュエリー作品の収蔵を続けるほか、「コンテンポラリー・ジュエリー-日本の作家30人による-」
(1955年)といった展覧会を開催するなどして、日本におけるジュエリーの最新の動向に注目してきました。これらの展覧会によって蓄積された調査・研究を踏まえて、本展は、日本において作家活動として展開されてきたジュエリーがどのように定着し、そして発展してきたのか、その歴史をたどることを主眼としています。身体をいわばキャンバスとするジュエリーは、それを身につける人物のイメージを内外から大きく変える働きを持っています。自他との親密なコミュニケーションの装置としてのジュエリー、その独自のあり方に魅了され、製作する作家35人の作品との対話をお楽しみ下さい。