我が国における仏教信仰は、古代以来、教学的なものがある一方で、ある特定の仏像が僧俗に対して何らかの利益をもたらしたという、霊験仏への信仰がある。この霊験仏信仰は、早くに『日本霊異記』などの仏教文学作品をもたらした。また仏教美術の側面からは、特定の霊験仏への信仰が模刻という行為を産みだし、いわゆる時代様式を超えた多大な影響も及ぼしている。
本展覧会では、この霊験仏信仰が中世鎌倉を中心とした世界で、どのように展開・発展したかを、その周辺に伝来した仏像や、金沢文庫が保管する仏像・史料から跡づけたい。第一部では鎌倉幕府創始以後、霊験仏信仰がその周辺でどのように伝播・移入・展開されたかを、日本有数の霊験仏である善光寺阿弥陀如来、長谷寺十一面観音、清凉寺釈迦如来などへの信仰に注目することにより明らかにしたい。また第二部では、鎌倉独自に展開した霊験仏信仰について、数々の霊験仏を製作したとされる仏師運慶の活動と、中世の霊験仏信仰に特有な、仏が実際に我々の眼前に現れる、いわゆる「生身仏信仰」に着目することにより、その信仰の様相の一端を明らかにしたいと思う。