このたび展示する作品の多くは、平成6年(1994)に、故田村伎都子さんが当館へご寄贈くださったものです。膨大な「田村コレクション」のテーマは、田村さんご自身のことばをお借りすれば「女の頭のてっぺんから足の先まで」。江戸時代から明治時代の漆器の化粧道具だけでなく、鼈甲や銀細工の髪飾り、蒔絵の飾り櫛、華やかな小袖、それらを身にまとった女性たちを描いた引札などを、まとめてご寄贈くださいました。
化粧道具の基本的な内容は、まず、美しく飾った姿を写す鏡、これを立てる鏡立て、髪を結うための道具、つまり、櫛や髪掻や油桶、白粉を入れる箱、紅を入れる箱、眉を描く道具、刷毛や筆とその収納箱、歯を黒く染めるための鉄漿道具、そして髪や衣服に香をたきしめるための道具などです。
田村コレクションの化粧道具の大きな特徴は、ふつうの美術館にあるような、豪華絢爛な公家や武家の旧蔵品ばかりでなく、町人階級の婦人が用いた化粧道具も含まれている点です。とはいっても、華やかな蒔絵で飾られているのですから、誰もが用いることのできたものではありません。このような化粧道具を婚礼の折にそろえてもらったお嬢さんは、どんなにか晴れがましい気持ちだったことでしょう。
なお、田村コレクションは、当館開館110年記念の特別展覧会「美のかけはし」(7月15日~8月27日)でも紹介しますので、ぜひそちらもご覧ください。