「その小さな光りの玉も、やがてはそのあやしい色と、さかしまの絵ともろともに、消え失せてしまうことだろう。」―――小泉八雲、「露のひとしずく」(平井呈一訳、恒文社刊『怪談・骨董 他』所載)より
著書『知られぬ日本の面影』『怪談』等で知られる作家・小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)は、明治期の日本に見出した風土、文化、人々の情を深く愛し、それらの中に宿る霊的なものを求めて、1890年の来日から1904年東京に没するまで日本の各地を旅しました。彼をそのような思いに最も駆り立てたのは、「わけてもここは神々の国である」と賞賛した山陰、特に1年3ヶ月を過ごした松江の滞在経験であると言われています。
1902年に発表された随筆「露の一滴」の中で、書斎の窓の竹格子に震えながらかかる、一滴の露の玉に映っている景色を通して小泉八雲が描いているのは、忽然と現われては消えゆくはかない生の輝きと、自然の中に存在する限り知れない神秘を宿した小宇宙の姿といえます。
1913年鳥取県境港市に生まれ、一貫して郷土山陰を撮り続けた植田正治は、写真というメディアの探求を通して自らの世界を展開し続けました。見慣れた景色や身近な人々にカメラを向けながら、植田は現実の中に潜む、時空をも超える世界に焦点をあて、レンズに映し出された現象を捉えて構成力巧みに切り取っています。焼き付けられた印画の数々は、自らの内面を反映したものであると同時に、そこにもまたはかない生の輝きを見てとることができるといえるでしょう。
今回の展覧会では、俳優の佐野史郎氏による監督映像作品「つゆのひとしずく」のイメージをベースに構成し、小泉八雲の文章を通して植田正治の世界を読み、また、植田正治の写真を通して小泉八雲の世界を見るという新しい試みをご紹介します。