本展は、関西を拠点に近年ますます旺盛に活動する今村源(いまむら・はじめ/1957~)の新作による個展です。今村は、机・冷蔵庫・椅子・電球など日常的な素材をわずかに加工することで、既成の価値の転換を試みます。それはしかしダダ的な否定とは無縁であり、作品はむしろユーモラスでさえあります。対象が内在する力をしなやかに変換し、新たな魅力をひきだすこと。作品は、視覚だけでは捉えきれない、別の次元の世界を媒介する装置となるのです。
今回、今村の個展を開催するにあたり、独特な地上/地下の関係性をもつ、当館独自の空間構造に着目しました。「連菌術Over the Ground ,Under the Ground」(*連菌術=れんきんじゅつ)というタイトルは「目に見えない世界」、さらに今村が日頃から関心を抱く「菌類の世界」に焦点を当てたものです。生態系において、菌類は植物(生産者)と動物(消費者)をつなぐ還元者として重要な位置を占めています。キノコはその典型で、動植物からもたらされる有機物を分解し栄養を摂取する一方でミネラル分を供給し、見事な共生関係を築いています。しかし、そうした共生のドラマは、大概が地中という隠れた世界で繰り広げられます。我々が認識できるキノコとは、成長した菌糸として地上に姿を現した、いわばごく一部に過ぎないのです。
今村の作品は、こうしたキノコの営みのように、実は目に見えない世界にこそ重要な摂理が潜んでいることを指し示しています。本展では、ともすると短絡的な視覚偏重主義に陥りかねない状況の中で、今村の視覚芸術を敢えて提示することで、思考の硬直化すすむ現代社会に一陣の風が吹き込むことを期待するものです。落ち葉が微生物によって分解され土壌を豊かにするように、本展が来館者の方々の心の土壌となれば幸いです。
また「今村源展―連菌術Over the Ground ,Under the Ground―」の会期中には、各界より豪華ゲストをお招きし、連菌術講座「チカラのカチ―きのこの目線を降りて―」(仮)を4回シリーズで開講します。きのこの面線に降りて聞くお話は、我々が知らなかったり、見失っていることに対して目を開かせてくれる貴重な機会となるはずです。