日本では、仏像を木で造ることが当然のように思われがちですが、飛鳥時代には金銅仏、奈良時代には金銅仏のほか乾漆像や塑像が盛んに造られるなど、木彫像は必ずしも主流をなしていませんでした。しかし、奈良時代後半から平安時代前半にかけて一本の木材からできるだけ像の主要部分を造り出すことを意図した一木彫像が盛んに造られるようになり、それ以降、日本の仏像の大半は木で造られるようになりました。仏教を信仰した国の中で、日本ほど木で仏像を造ることにこだわった国はないといえ、そこに日本の仏像の一つの特質が見られるように思います。今回の展覧会では、日本人がこだわった木で仏像を造ることの意味を考えるとともに、そこで培われた良質な木の文化を通して日本人の心や精神性に触れることを意図しています。
展示は、「檀像の世界」、「一木彫の世紀」、「鉈彫」、「円空と木喰」という四つのテーマから構成されます。白檀やその代用の材で造られ、一木彫の成立に重要な意味をもった檀像、八世紀後半から九世紀前半にかけて優れた造形性を発揮して展開する一木彫、神木や霊木の信仰と結合し荒い鑿目をそのまま残し独特の彫刻美を創出した鉈彫像、民衆への深いまなざしをもちながらひたすら木を掘り続けた円空や木喰の仏たちを通して、その底流に脈々と流れる日本人が木と仏に託した祈りの世界を実感していただけると思います。
出品作品は、146体でいずれも名品揃いです。特に会期の後半(11月7日~12月3日)にお出ましになる滋賀・向源寺の国宝十一面観音菩薩立像(渡岸寺観音堂所在)は、その姿の美しさから多くの人々の心を魅了してきた像ですが、今回、寺外初公開になります。
一木彫像はまさに大地に根を張った生命力あふれる木から造られた仏像であり、その造形には拝する人を圧倒する力があります。本展が、どこか不安感を持たざるを得ない現代人の心に、何らかの精神的な活力を生む機会になればと考えています。