萩原英雄(1913-)は山梨県の出身。1938年に東京美術学校油絵科を卒業しました。美術学校時代に銅版画を試みたこともありましたが、基本的に油彩画を続けてきた萩原が、版画に取り組み始めたのは、40才になった1953年から55年までの結核のための療養生活がきっかけです。その時、年賀状から始めた木版に魅了され、退院後の1956年にはそれらの作品を集めた版画展を開催するまでになったのです。
〈ギリシャ神話〉の連作は、この後まもなく神話をもとに制作された42点組の作品集です。今回は2回に分けて紹介します。
形態のデフォルメや画的な空間処理には、かつてセザンヌに心酔し、ヨーロッパの動向に敏感であった萩原が、ピカソやシュルレアリスムの表現に刺激を受けていたことが伺えます。技法の開拓に取り組みはじめた初期の基本的な技術を用いた制作ではありますが、萩原の版画制作の原点に位置する重要な作品群であると言えるものです。この後、萩原は技法を探求し、木版画の可能性を広げて行き、それに伴って世界的な評価を得ることのなるのです。