明治20年代から30年代にかけて、画家・美術教師として各地の風景・風物を見事な筆致で描いた矢野倫真(やのりんしん1864-1943)の水彩画を初公開します。
矢野は元治元年(1864)加賀藩・本多家家臣の家に生まれ、明治19年(1886)、京都府画学校で西洋画を学んだ後、美術教師として富山県、愛媛県、京都府、岐阜県の各中学校を歴任し、かたわら水彩画を描き続けました。これらの作品が描かれた明治30年代は、日本の水彩画の黄金時代ともいうべき時代で、丸山晩霞、大下藤次郎、三宅克己等の水彩専門の画家が活躍しました。矢野の作品はそれらと同質の高い水準を示すものです。
当館はこれまで本県の洋画家を調査し、その結果を「石川洋画のあけぼのⅠ戦前までのあゆみ」、「石川洋画のあけぼのⅡ幕末明治編」の二つの展覧会に示してきましたが、その際、矢野倫真の名は記録に残るものの作品は不明で、紹介することはかないませんでした。今回、200点を優に超える矢野の水彩画が矢野家で発見され、しかもこれまで陽にさらされることはなかったのでしょう、とても鮮やかな色彩を見せています。100年前の美しい日本の風景・風物をこの機会にぜひご覧いただきたいとおもいます。