19世紀はじめのフランスは、始まろうとしていた重工業化が民衆の生活を脅かしつつありました。
このころ、絵画の世界では、自然や一般民衆の姿を描いた17世紀のオランダ絵画やコンスタブルなどのありのままの風景を捉えた19世紀イギリス絵画が流入、変化が芸術の世界にも及んでいました。社会の変化は人間にとって非常にストレスとなっていましたが、それは、画家たちも例外ではありませんでした。
聖書の物語や神話を描く歴史画を頂点とした、それまでの凝り固まった絵画のジャンルのヒエラルキーが崩れ、画家たちは憩いの場として、自然に目を向けるようになってきました。
こうして鉄道が敷かれ、パリからの往復が楽にできるようになったフォンテーヌブローの森は画家たちを惹きつけ、パリやノルマンディー地方で描いていた画家たちが森のはずれのあるバルビゾン村に集まり、森や田園を描く新たなる流派が誕生したのです。
コローやミレーを中心とした、彼らバルビゾンの画家たちは、戸外に出て、水彩などで自然をスケッチし、自然の光や色彩を油彩で画布に描きとめました。
マネやモネなどもバルビゾンに通い、そこで制作する画家たちと交流しました。
印象派の運動は、バルビゾン派の影響を多く受けているのです。
今回の展覧会では、歴史の中ではなく、同時代の自然を描きとめたコローなどを中心とするバルビゾン派から、戸外において、ありのままの自然と人間の姿を描いたルノワールなど、印象派に至る流れを、フランスのアラス美術館、ドウエ美術館などが所蔵する80点ほどの油彩でたどります。