鳥取県を代表する版画家・長谷川富三郎(1910-2004)氏は、姫路市に生まれ、鳥取師範学校卒業後、倉吉市で小学校の教員となります。教職の傍ら「砂丘社」の活動に加わり、油絵を学びますが、民藝運動に触発され、柳宗税(やなぎむねよし)、河井寛次郎、棟方志功らと出合い民藝運動に参加します。戦後しばらく油絵を描いていた長谷川に版画を勧めたのは棟方でした。長谷川は河井寛次郎を師と仰ぎ、棟方志功を兄弟子として慕い、棟方らが創立した日本版画院にも加わるなど、生涯にわたり影響を受けました。また、その間、教育者として子供達に版画の指導も行い、「教育版画」「民藝教育」による学校づくりに取り組むなど、県内外で後進の指導にあたりました。
一方、棟方志功(1903-1975)は、青森市に生まれ、幼い頃から画家を志し、21歳のとき上京。独学で油絵を学び、1928(昭和3)年帝展に初入選しました。ちょうどこのころ、川上澄生、平塚運一らの影響を受け、版画の道に入ります。国画会展に出品した《大和し美し》により、柳宗税、河合寛次郎ら民藝運動の指導者たちの知遇を得、彼らの卓越した芸術観に大きな感化を受け、棟方芸術を開花させていきました。その後、サンパウロ・ビエンナーレなどの国際展で受賞し、国際的にも高い評価を受けました。岡山へは倉敷の大原邸をたびたび訪れ、多くの作品を残していますが、1948(昭和23)年頃から1953(昭和28)年まで、岡山県北の津山市や奈義町周辺にも度々訪れ、岡山や鳥取の民藝運動の人々とも交流を深めました。
本展では、昨年末、長谷川富三郎氏のご遺族から寄附を受けた作品を中心に、長谷川の兄弟子であり、岡山とも深い係わりのある棟方志功の岡山県北での活動にもスポットをあて、民藝運動を支えた2人の版画家を紹介します。