M.C.エッシャー(1898-1972)は、オランダを代表する版画家の一人です。当初建築装飾学校で建築を学んでいたエッシャーは、グラフィックアートの教師に才能を見出されて版画技法を習得し、美術を志すようになりました。エッシャーの作品といえば、遠近法や透視法を逆手にとって現実にはありえない光景を描く「だまし絵」がもっとも有名ですが、ほかにも、ある形が徐々に別の形へと変わっていく「メタモルフォーゼ(変容)」シリーズや、画面を特定の形で規則的に分割する「平面の正則分割」シリーズなど、さまざまな表現が知られています。二次元の世界である絵画空間の可能性を追求し続けた彼の特異な作風は、美術関係者だけではなく数学者や知覚心理学者の注目も集めました。計算しつくされた画面構成、緻密で正確な描写、卓越した版画技術、そしてその豊な想像力は、今もなおわたしたちを魅了してやみません。
今回は、オランダに関わる美術品や資料を収集するハウステンボス美術館(長崎県佐世保市)から一括して作品をお借りして、エッシャーの生涯をたどる回顧展を開催します。版画やドローイングのほか、版木、書籍などの資料も含め、あわせて166点を展示する予定です。青年期から晩年までの多彩な作品を通して、エッシャーの世界をどうぞお楽しみ下さい。