スティーヴ・マックィーン(イギリス・1969年-)は1990年代初頭から映像作品の制作をはじめて注目を集め、1999年にターナー賞を受賞、その後も欧米各国で相次いで個展が開催されている、現在最も活躍するアーティストの一人です。
マックィーンは8mmや16mmフィルム、スライドやビデオといった様々な映像媒体を用いて、モノクロからカラー、無音のものから音あるいは言葉が重要な要素となるものまで多様な作品を制作し、さらに扱う事象も社会的な背景を持つものから個人的な関心事まで多岐にわたっています。しかし多くの作品は特筆すべき出来事は何も起こらないまま展開されたり、あるいは断片的な場面が連続し、いずれにしてもはっきりとした筋立てがあり、誰もが共有できる物語は語られていません。そのため作品から明確なメッセージを受け取ることは困難ですが、考え抜かれた編集やアングルの選択などに支えられた映像は、何かが起こりそうな、あるいは起こりつつある印象を鑑賞者に与え、作品への集中を誘います。見る者は行間を読み取ることで、語られていることからさらに想像をめぐらせ、深い思考へと導かれ、また細心の注意をはらって設えられた展示環境や考え抜かれた映写方法、画像の大きさなどは、人々に映像内部と自己とを隔てる境界を見失わせ、映像と一体となる感覚をおぼえさせることでしょう。
本展は近作を通してマックィーンの深遠なる映像世界を紹介するものであり、日本では初の個展となります。