日本人の暮らしにおいて、身体と衣の関係は、日常生活や人生の節目の象徴とされるほど密接で重要な意味をもっていました。そうした布との具体的な関わりを通して、人々は触覚、趣味、嗜好など様々な感覚を覚醒、発達させてきました。
ただ、布はとても貴重だったため、人びとはむしろ、断片で布と接することが多く、ハギレという概念それ自体も、時代や地域よって現在の私たちとは異なるものがあったと思われます。
どんなに小さな布片でもとても大切にされ、衣服の補修や加飾、日常の物作りに用いられました。また、そうした行為をとおして、布を生み出した人や世界に思いを馳せたり、物を比較する目を養ったり、新たな創作への刺激材料としたのです。
布を断片で見ていくと、日本人の布に対するこだわりや美意識の現われ方、布の生産・流通・需要の地域性、布を介して見えてくる信仰心や人生観など、日本人、日本社会の諸相を身体的尺度で細やかにとらえることが可能になります。
この展覧会では、布、特にその断片であるハギレと人との関わり方に焦点を絞り、日本の染織文化、さらには日本文化の深層を探ろうとするものです。