今日では、京都や金沢をはじめ日本各地の伝統工芸の盛んな街に行くと、民芸店が必ずあって観光客で賑わっている、という光景をよく見かけます。民藝という言葉やイメージは広く一般に浸透していると言って良いでしょう。
もともと民藝とは“民衆的工芸”の略語で、名もない工人たちの手になる生活雑器や民具、実用的な手工芸品などに健康で素朴な美を見出そうとした柳宗悦(1889―1961)が考えた造語です。柳の提唱した民藝とは、実用性、無銘性、複数性、廉価性、労働性、地方性、分業性、伝統性、他力性を有したものでした。こうしたものこそが工芸のあるべき姿だとして、大正末から柳と彼に協力した工芸家たちによって、その発見・収集と保護の運動が展開されたのです。それまで省みられることのなかった日用雑器に新たな美と価値を見出したこの民藝運動は、日本の近代工芸の展開に重要な役割を果たしました。
しかし、今日では民藝風、民藝調などといった言葉も日常の中でよく使われているように、当初、柳たちが理想としたものとは大きくかけ離れたものも生まれています。そこで、この展覧会では、柳宗悦が展開した民藝運動の軌跡を、柳の眼と心が捉えたゆかりの作品でたどるとともに、柳の協力者として、また、賛同者として柳の理想を自らの制作に生かして活躍した近代工芸の巨匠たち7名の作品をあわせ、計約150点を展示し、今日的な視点から、柳と仲間たちが展開した民芸運動の意義を改めて探ってみようとするものです。なお、本展は昨年から今年にかけて全国14館を巡回して開催されていますが、東京での開催はなく、首都圏では当館が最も都心に近い開催館となります。また、昨年の開催とは展示作品も38点入れ替わっています。この機会に、是非、多くの方々にご覧いただきたいと思います。